心臓エコー画像のストレイン解析について

はじめに 

心臓の働きを調べる心機能検査の方法として様々なものがありますが、その中でも心臓エコー検査は簡便でリアルタイム性に優れていることから臨床的に広く用いられてきました。心臓エコー画像の解析項目としては左室駆出率(left ventricular ejection faction:LVEF)や、ドプラ画像を用いた指標などがありますが、近年、スペックルトラッキング(Speckle tracking)法によるストレイン解析(ストレイン:組織の変形あるいは歪み)が臨床応用され、心筋の局所の壁運動などの評価ができるようになりました。

この記事では心筋のストレイン解析について、簡単に解説していきます。

 

概要説明 

心臓は収縮と拡張を繰り返し、全身に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、収縮するときにねじれることが知られています。スペックルトラッキング法では、局所毎に収縮期と拡張期に移動した2点間の距離と角度を算出し、心筋の壁運動を定量的に表します。 

心筋ストレイン解析では心筋そのものの評価のため、従来の解析よりも微小かつ早期の心機能異常を捉えることが可能になりました。例えば、左室駆出率は保持されていてもストレイン指標が低下していることから心機能異常を早期診断できたり、治療効果の判定、心疾患の予後評価に利用できると考えられています。 

 

ストレインの種類としては、長軸方向への伸縮を表す longitudinal strain:LS、心筋の中心部方向への縮みを表すradial strain:RS、心筋の円周方向への縮みを表すcircumferential strain:CSがあります。 

 

 

 

 

心筋が収縮すると、長軸および円周方向に短縮し、短軸(厚み)方向には壁厚が増加します。つまり、長軸および円周方向は短縮率(LS、CSは負の値)となり、短軸方向は壁厚増加率(RSは正の値)となります。 

 

ストレイン解析方法 

LSは心尖部二腔断面、心尖部三腔断面(心尖部長軸断面)、心尖部四腔断面のBモード動画から、RSとCSは心尖部短軸断面(僧帽弁レベル、乳頭筋レベル、心尖部レベル)のBモード動画から算出されます。それらの動画を解析ソフトウェア上で心筋のトレースを設定することで算出されます。

また、ストレイン解析の結果をブルズアイ表示することもでき、虚血性心疾患における壁運動の低下などを視覚的に捉えることができます。

 

 

GLS,GCS,GRS 

心尖部二腔断面、心尖部三腔断面、心尖部四腔断面において、左室の心筋を心尖部、心中部、心基部に分けて分割できます。この分割された領域のLSのストレイン値の平均はGLS(Global longitudinal strain)と呼ばれ、左室全体の収縮能指標として用いられています。GLSは左心機能のわずかな変化を検出することができ、LVEFよりも早期の異常を捉えるのに効果的であるといわれています。GLSの臨床応用としては、弁膜症やアミロイドーシスなど、EFが保持された病態での心筋障害の検出、冠動脈疾患における心筋虚血の検出、左室同期不全の評価や、抗がん剤治療による心筋障害の早期発見などがあげられます。なお、現時点では心エコー装置間や解析装置間でばらつきがあるため、GLSの症例間での比較や同一症例の追跡には同一の心エコー装置と解析装置を用いることが推奨されています。

RS、CSも同様に、領域の平均値として、GRS(Global radial strain)、GCS(Global circumferential strain)を算出することができます。

 

終わりに 

スペックルトラッキング法を用いたストレイン解析は現在も多くの研究が行われており、今後はさまざまな心疾患における心筋障害の診断、予後の診断、病態の解明、治療薬の開発などに寄与することが期待されます。 

 

参考文献