はじめに
近年、核医学の分野において、分子イメージング技術は大きく発展しており、疾患の診断のみならず治療薬の開発においても、バイオマーカーとして世界的に着目されている。その中でも特に、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography;PET)は人体に対するリスクを最小限に抑えながら、生体内の薬剤の挙動や組織の機能を画像化し、定量的に測定することが可能である。
しかし、人体におけるPET検査では、体内に放射性薬剤を投与する必要があり、これに伴う内部被ばくが避けられない。そのため、PET薬剤の開発と実用化のためには、薬物の体内動態を探索し、体内分布や尿中排泄のプロセスを詳細に理解し、薬剤の人体への安全性と薬物動態を検討する必要がある。
これらの検討を行うために、薬物が各臓器にどの程度集積するか、そしてそれに伴う被ばく線量を、数学的なファントムを用いて計測することが一般的である。このファントムは、標準的な人体の臓器の形状と質量を幾何学的に模倣したもので、内部被ばく線量測定に利用される。
本記事では、内部被ばく線量の測定および被ばく線量解析の手順について述べる。
PET検査の被ばく線量
日本国内では、PETに関するガイドラインが複数発行されている。
その中の一つ、「FDG PET,PET/CT 診療ガイドライン2020」では、FDGの投与基準として、診断上の有益性が被ばくによる不利益を上回ると判断される場合に投与すること、また投与量は必要最少量とする、と定められている。
FDGを投与された被験者の被ばく線量は報告によって数値が異なるが、 同ガイドラインの報告に基づく数値を示す(表-1)。成人に 185 MBq (5 mCi) のFDGを投与した場合、実効線量は 3.5 mSv である。一方、68Ge-68Ga 線源を用いる通常のトランスミッションスキャンによる被ばくは 0.25 mSv 程度である。PET-CT における吸収補正用 X 線 CT 撮像による被ばく(実効線量)は、スキャン範囲にも依存するが 1.4~3.5 mSv とされている。また、画像重ね合わせ用の高画質CTを広い範囲で撮像した場合、機種の違いや撮像条件にもよるが10 mSv以上となる可能性がある。
これらの数値を考慮すると、PET検査では被ばく線量が大きくなる可能性があり、線量管理は極めて重要なことがわかる。PET検査を行う場合には、必要最小限の被ばくにとどめるよう留意する必要がある。
表-1 FDGを投与された被験者の被ばく線量
臓器 | 成人 | 15歳 | 10歳 | 5歳 | 1歳 |
赤色髄(mGy/MBq) | 0.011 | 0.014 | 0.021 | 0.032 | 0.059 |
膀胱壁(mGy/MBq) | 0.13 | 0.16 | 0.25 | 0.34 | 0.47 |
実効線量(mGy/MBq) |
0.019 | 0.024 | 0.037 | 0.056 | 0.095 |
内部被ばく線量の測定:MIRD法
内部被ばく線量を求めるにあたり、最も理想的な方法は、全身のPET撮像を時系列に繰り返して、各臓器の正確な集積放射能を測定することである。しかし実際には、長時間にわたる被験者の拘束の必要性があることから実現は難しい。そこでMIRD(Medical Internal Radiation Dose)法を用いて、被ばく線量を評価する臓器のみを測定し、標準的なヒトの代謝のファントムに当てはめて、全身の被ばく線量を推定する方法が広く用いられている。
この方法では、体内に投与された放射性薬剤の体内動態を標準的なヒトのファントムから、数学的ファントムのシミュレーション計算を通じて、各臓器に分布した放射性種によって体内の各臓器が吸収するエネルギーを求める。そして、これを用いて各臓器の等価線量や実効線量を評価する。この過程では、主なβ線やγ線だけでなく、二次的に発生するX線や電子線など、あらゆる放射線を考慮にいれて計算される。(参考資料[1])
MIRD法による計算を行うためには、以下の情報が必要である。(参考資料[2])
① 放射性医薬品の投与量、時間的代謝、体内分布のデータ
② 放射性核種の物理的特性
③ 測定臓器間の吸収特性
②、③の情報に関しては、MIRD委員会より詳細なパンフレットとして提供されている。
また、MIRD法による体内吸収線量の計算は、次式により表される。
D(t←s)=As/mtΔφ(t←s)
D(t←s);線源臓器sより標的臓器tへの平均吸収線量(rad)
As:線源臓器中での各種の累積放射能濃度(μCi・h)
mt:標的臓器重量(g)
Δ:核種に対する平衡吸収線量定数(g・rad/μCi・h)
φ(t←s):吸収率
被ばく線量解析の手順
この項目では、被ばく線量解析の実際の手順について述べる。
まず、PET画像データを取得し、解析ソフトウェアを用いて、各臓器の関心領域(voxel of interest; VOI)を設定する。この際、画像を表示するためのウィンドウ設定値によって、臓器の大きさが異なってみえるため、適切なウィンドウに設定する必要がある。次に、集積がある臓器より少し大きめにVOIを設置し、閾値処理をして臓器の形に適合させる。このとき、アーチファクトや体動の影響等により、集積ではない部位を囲む場合があるため、解剖学的構造に注意しながら1スライスごとに手修正を行う。また、吸収補正用のCT画像がある場合は、VOIを設置したPET画像と重ね合わせることにより、臓器の形態が把握しやすくなるため、CT画像も参考にしながらVOIを修正していく。
さらに、VOIを設定した画像から、解析ソフトウェアを用いて各臓器の時間放射能曲線(time activity curve; TAC)を得る。このTACから被ばく線量を算出するのだが、そのためのソフトウェアに、 OLINDA/ EXM(Organ level internal dose assessment/Exponential modeling)(参考資料[3])ある。これは 性別や複数の年齢層、妊婦を想定したファントムが含まれており、臓器ごとに放射能集積の時間経過に基づいて、 MIRD 法を用いてヒトでの被ばく線量を評価することができる。
おわりに
以上が内部被ばく線量の測定および被ばく線量解析の手順となります。
マイクロンでは、多数の臨床試験にて、被ばく線量解析を行った実績があります。興味を持たれた方は、お気軽にご連絡ください。
参考資料
[1] 核医学領域での計測 松本圭一 清水敬二
[2] 核医学検査技術学改訂3版 佐々木雅之 桑原康雄
[3] Stabin MG, Sparks RB, Crowe E. OLINDA/EXM: the second-generation personal computer software for internal dose assessment in nuclear medicine. J Nucl Med. 2005 Jun;46(6):1023-7. PMID: 15937315.